【シカゴ=野毛洋子】米で熱波による穀物被害が深刻になってきた。ビルサック米農務長官は18日緊急記者会見し、米国土の6割が干ばつに見舞われているとして事実上の非常事態を宣言した。トウモロコシの国際価格が1年1カ月ぶりに過去最高値を更新。穀物需給の逼迫が食肉など幅広い品目に波及し世界的な食糧インフレを引き起こす懸念も強い。減速傾向にある米景気・雇用にも大きな不安材料となりそうだ。
「(作柄の悪さは干ばつ被害で大減産となった1988年以来)この24年で最も深刻だ。オバマ米大統領とともに農業を守らなければならない」。同長官は会見で悲痛な表情を浮かべた。今夏の熱波は西海岸のカリフォルニアから南部フロリダまで米大陸を横断する格好で猛威を振るっている。
トウモロコシや大豆の世界的産地である中西部を直撃している形だ。両作物とも8割弱の生産が熱波で何らかの被害を受け、凶作の恐れが急速に広がっているという。米海洋大気局の基準では全米の55%が干ばつ状態にあり、1956年以降で最悪の状況だという。
米農務省は同日、公的低利融資や補助金などを受けられる「自然災害地域」にミシシッピなど南部州を中心に39の「郡」を追加。同地域の指定は29州1297郡と過去最高水準を更新した。指定拡大とともに特別融資金利引き下げなど農家への支援を強化している。
さらに同長官は「我々に与えられた手立ては少なく議会の力が必要」と与野党に早急に財政措置を含む抜本的な追加支援に動くよう要請した。背景には被害地域に共和党の地盤州が多く、オバマ政権への逆風が一段と強まりかねないことへの危機感もありそうだ。
穀物高騰への懸念は一段と強まりつつある。英バークレイズは18日のリポートで「2007~08年、10年に続く食糧インフレに見舞われる可能性は急速に高まっている」と指摘した。
トウモロコシは指標となるシカゴ市場の先物価格が日本時間19日の時間外取引で期近の9月物が、初めて1ブッシェル8ドル台に乗せ、昨年6月の最高値(7.9975ドル)を超えた。大豆も期近の8月物が18日に続き最高値を更新し、初めて1ブッシェル17ドル台に乗せた。
米農務省が今週発表した7月15日時点の作柄は「優」と「良」の比率がトウモロコシは31%で前週比9ポイント低下。大豆は34%で同6ポイント低下した。深刻な干ばつ被害で大減産となった88年以来の低水準が続いている。
トウモロコシはすでに受粉期を過ぎており、仮に今後降雨があっても「作柄の回復は絶望的」(穀物アナリスト)だという。すでに最高値圏にある大豆についても「南米の生産能力が限られていて十分に代替生産がきかない。1ブッシェル当たり20ドルに達する可能性もある」(シティグループのスターリング・スミス氏)と予想する声も出始めている。